明子館長の佐賀発見!#6
第6回 東よか干潟と有明海の生き物たち 2025年6月17日
有明海のお話を続けましょう。
佐賀市の南部、佐賀空港から車で10分ぐらい行くと、東よか干潟(ひがしよかひがた)にたどり着きます。
ここは、私の大のお気に入りの場所の一つ。一般的な観光ガイドブックの隅の方にしか載っていないのが不思議なくらい、知る人ぞ知る穴場です。バードウォッチャーには聖地ですね。
干潟という存在に馴染みのなかった私にとっては、どろんこは少し近寄りがたいもの。そう、振る舞い方がわからなかったのです。佐賀に来たからには行ってみなくてはと、でも一人で初めて訪れた時には靴底こそ平らでしたが革のローファー。敷石のあるところだけなら大丈夫だろうと進みました。
「あんたそんな靴でよく来たねー、勇気あるねー」と地元の人らしき女性に声をかけられましたが、
「はい、石のあるところにしか行きませんからー」と答えた束の間、
ズブっといきました!
そのあとは、、、簡単には足が抜けないのです。泥がへばりついて、足が重くなって、つかまるところがなくて、泣きそうになりながらほうほうの体で泥沼から抜け出しました。
これが私の初めての夏の干潟体験です(笑)
泥の中をよく見ると、小さなカニやシオマネキやハゼが本当にたくさんいて、中にはハートの目をしたムツゴロウも見つけました。私にとっては珍しい生き物が、ここでは珍しくないのだと実感しました。これぞうわさに聞く有明海!
そして次に訪れたのは11月と12月。秋から初冬にかけてのバードウォッチングの季節です。もちろんゴムの長靴をしっかり履いて。さらに、《ゆめぎんが》の学芸員で鳥の専門家も一緒に行ってくれたので、鳥たちの生態の解説付き。
ムツゴロウのジャンプ photo ©T.Ito
日本の干潟のおよそ40%を占める有明海。何千年もかけて育まれた干潟は栄養豊富で、まさに渡り鳥たちのパラダイス、楽園なのですね。南半球の越冬地と繁殖地である北半球を往復する渡り鳥、特にシギ、チドリ類の渡来数は日本一、さらには世界的に絶滅が危惧される鳥たちも多く見ることができます。
休息するハマシギ Photo © Y.Nakamura
干潟へ降りるシギチドリ Photo © Y.Nakamura
この日見られた鳥たちの名前は、
ハマシギ(みごとな舞部隊)
アカアシシギ(足が赤い)
シロチドリ(ハマシギと一緒に行動する)
ダイゼン(声が甲高い、大きいチドリ)
ズグロカモメ(クチバシ黒、尖っている)
ユリカモメ(クチバシ赤、ズグロカモメより大きい)
セグロカモメ(この日のカモメでは最大、ハマシギを蹴散らす)
ツクシガモ(クチバシ赤、体白に数色)
オナガガモ(メスこげ茶、オスこげ茶と白)
アオサギ(アカデミー賞長編アニメ賞受賞「君たちはどう生きるか」で一躍有名になったサギ)
クロツラヘラサギ(くちばしがヘラのような形、絶滅危惧種)
ミサゴ(魚を食べるタカ、英名オスプレイ)
ハシブトガラス(シギチ集団へ邪魔しに来た)
などなど
万羽のシギが舞う Photo © Y.Nakamura
ダイゼンとズグロカモメ Photo © Y.Nakamura
ズグロカモメとユリカモメ。違いは分かるかな Photo © Y.Nakamura
シギチドリ飛来数日本一の東よか干潟 Photo © Y.Nakamura
鳥たちは、北極圏、シベリア、アラスカからおよそ1万6千kmを12日間ほどかけて休まずに飛んできて、佐賀で休憩。ニュージーランドまで行くものと、ここで冬を越して北へ戻っていくものがいるそうです。GPSをつけている鳥がいるので今はかなり行動パターンがわかってきているらしい。
専門家は姿形だけでなく、鳥の鳴き声でも識別ができるのですね。そう聞いてよくよく耳を澄まして見ると、鳥たちの合唱が心地よく響いてきます。
こんな風景は私はこれまでテレビや映画の中でしか見たことがなく、本物の自然、地球と生き物の存在を実感しました。
渡り鳥たちが海岸線近くでたくさんかたまってみられるのは満潮に近い時間帯だそうです。海水で干潟が狭まり、そこに鳥が集中して休みます。そして潮が引き始めると、泥の表面に出てくる小さな生き物を餌についばみ始めます。まさに地球と生き物の自然の営みを目の当たりにすることができます。
事前に潮汐表を見て、ぜひ訪れてみてください。
佐賀県立宇宙科学館
館長 鈴木 明子
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この回の画像は、どれも日々自然観察をしている《ゆめぎんが》のプロの学芸員が撮ってくれたものです。
東よか干潟ビジターセンター「ひがさす」
https://www.higasasu.city.saga.lg.jp/
潮汐表
https://www.higasasu.city.saga.lg.jp/tide-table/
ラムサール条約湿地