ゆめぎんが建築コンセプト

ゆめぎんが建築コンセプト

『GA JAPAN』39号 1999年7月

新しい風景を導き出すスペースシップ 

「同化と浮遊」 佐藤総合計画 大野勝

 

■三つの建築装置

佐賀県武雄市は、青銅製の大砲や天空儀、顕微鏡を日本でもかなり早い江戸時代後期に作り、収集した先進的な町でした。その街の郊外、リゾート施設が周辺に点在し前面に大きな池がある緑豊かな小高い丘が、計画敷地となっています。その恵まれた環境に宇宙科学系の展示機能をメインとし、自然史と科学展示機能を内包するという、総合的なプログラムの施設を要求されました。展示テーマとしては宇宙、地球、佐賀をそれぞれ再発見する三つのゾーンに分けられます。ターゲットは青少年ですが、県内だけでなく、九州全体、場合によっては全国的な範囲を対象と考え、それらを受容する施設づくりが求められました。

 そのような与条件から、既存環境における建築空間のあり方と、新たな参加体験型ミュージアムのあり方を提案の軸としました。そして、その二つのテーマを建築的にまとめる空間コンセプトとして掲げたのが「同化と浮遊」という言葉です。いわば大地に根差したベースに、浮かぶようなスペースシップを「見立て」て作っています。そのコンセプトを具現化する方策として三つの建築装置を考えました。「ステップギャラリー」と「スペースシップ」、そして「パブリック・カタパルト」です。

 「ステップギャラリー」は低層部にあたり、緑の大地に埋め込まれスパイラル状に広がっている。それは断面的にも段状で大地に同化していく形態を取っています。そこに地球と佐賀の発見ゾーンという展示室を内包しました。屋上は緑化されたプラザとして開放され、重層的なパブリック・スペースを作り出しています。

 「スペースシップ」はまさに空中に浮いているような部分で、宇宙展示のスペースを設けている。その下はヴォイドなネガティブ空間が残りますが、そこを「パブリック・カタパルト」という周辺の緑豊かな環境と一体となったエントランス空間としました。そこはスペースジャンクションと呼んでいる上下階の展示スペースへの導入空間でもあり、また先端のデッキ(カタパルト)からはパノラマ状に豊かな水辺空間の眺望が開かれています。内部でも外部でもある空間として、人が自由に散策したり、そこから展開する様々な空間を覗いてみようと思えるような公共空間を作ることを意図しました。デザイン上、スペースシップは青銅の大砲、プラネタリウムは天空儀、段状に展開するエントランスは登り窯、ステップギャラリーは顕微鏡と六分儀といった佐賀、武雄に培われた形態イメージを暗喩し、歴史の継承性という文脈の延長線にあるとも言えましょう。

 自然と建築の共生、環境との融合といった意味からか、できるだけ建築を象徴的に扱わないことが最近の建築の傾向のようです。しかし、ただ与えられたコンテクストに働きかけ、その可能性を顕在化させ、そこに新しい風景を導き出すということが重要ではないかと考えています。「同化と浮遊」には、そんな意味合いが込められています。

■浮かぶ建築の実現

 この建築で一番特徴的な「スペースシップ」は、コンセプチュアルにはまさにただ浮いた状態のイメージが一番近いのです。ですから「空間に柱、梁ありき」ではなく、むしろまず「浮いたものがありき」で、現実的には浮遊感のある形態や材料、構造をどう実現するかが問題となりました。飛行機や宇宙船は浮遊感のイメージの一つとしてはあっても、私たちは大地に根付く建築を作っているのですから、それをそのまま意匠的に用いることはあり得ない。建築に求められる機能を満たしながら、そのイメージを実現させるために、どういう構造や材料にするかは需要な事項です。特に材料の選択や細かいディテールのデザインには、こだわったつもりです。構造に関して特徴的なのはエントランス部のトラス状になった四本柱でしょう。トラス状にすることにより、構造上有利に鉛直荷重と水平荷重を分担して大スパン架構が可能となり、それぞれのメンバーも細くできる。さらにFR鋼を使うことで、構造材イコール仕上げ材となり、材料としてもスレンダーな形を追求したものになっています。

 低層部については、周辺の緑と一体になる大地に根付いたイメージから、打放しコンクリートが選ばれました。高層部は軽やかな感じの材料が相応しいと考え、アルミスパンドレルを使っています。一部、表面が金属のようにも見えるPC板も使用して浮遊感を増長しています。

 組織事務所というと、可もなく不可もない平均点に収まるようなところが、個性のなさや平凡といった評価を受ける原因になっているかもしれません。これまで蓄積されてきた技術やディテールの中で安定を求めるだけでなく(もちろん、安定感のあるスタンダードさといったものは重要です)、新しい技術を開発し、積極的に駆使しながら、建築の可能性を拡げ、それを社会へ提案していくということが必要でしょう。

外テラス


パッセージギャラリーとスペースジャンクション


スペースジャンクション

スペースジャンクションを囲む階段スペースジャンクションを囲む階段

各展示室へ導くエレベーターシャフト

3階ロビー

■設計を支える組織の変化

 技術が高度に発達した現在では、建築の設計行為はチームワークが前提になっています。しかし、組織規模の大小や活動拠点は良質なデザイン提案が出来るかどうかということと、あまり関係ないように思えます。実際に活動するのは個人レベルですから、その個人が持っている資質と設計グループの集積力の問題が大きいのではないでしょうか。ただし、組織事務所は社会やクライアントの要望にいかに応えるかという視座を持って個の能力を伸ばし、面白いデザインをどしどし生んでいくような活動しやすい仕組みを作る必要は痛感しています。

 特に今年度から設計に関しては組織の脱ピラミッド化、つまりフラット化の流れを強く押し進めてきていますが、今まで以上に個人のリーダーシップに期待しプロジェクトリーダー制を敷きました。東京本社では設計リーダーを9人から14人に増員し、そのリーダーに責任と権限の大部分を移譲して、外部との折衝から設計まで個人の能力を最大限発揮してもらうことにしたのです。今回のプロジェクトでも、当時設計部長(リーダー)の立場で、平成79月に行われたプロポーザル・コンペから竣工まで私が関わった案件ですが、ある意味ではこのようなプロジェクト・リーダー制の先駆的な活動例だったかもしれません。

 一方、リーダーが主体的にプロジェクトを遂行することを基本におきながらも、プロジェクト本部を東京本社に置き、コンペ、プロポーザルなどについて全社的に対応していくことも進めている。本社や各事務所に発生したプロジェクトに対して、全社的視野で検討、バックアップするシステムと言えます。個の力を発揮してもらいながら、同時に組織全体としての力も発揮できるように考えています。

 その結果として、組織全体としてのデザイン・ポリシー、メソッドがあるということよりも、プロジェクト・リーダーそれぞれが個性を発揮して対外的にアピールするものを発表してもらい、それが総体として佐藤総合計画のイメージになれば良いと考えています。

 また、外部のデザイナーやエンジニアとのコラボレーションも今後ますます重要となるのではないでしょうか。プロジェクトに応じてそれに相応しい最適なチームをフレキシブルに組む。いつも同じ顔ぶれといった緊張感を欠いた中からは、新しい発想は生まれません。これまでにも幾つかのコンペやプロジェクトでそのようなコラボレーションを行い、成果をあげています。

 内外を問わない多様で柔軟な組織のあり方の可能性を拡げる意味でもプロジェクト・リーダー制に期待しています。

■新たな組織の挑戦

 私たちは公共建築に比較的多く取り組んできましたが、これからは公共建築の新しいあり方の提案も私たちの課題の一つです。最近では、コストに対する意識も特に強く求められています。そういう合理性は基本的に押さえながら、それだけで公共建築を作ることは必ずしも良いとは限らないと考えています。むしろ、社会性や公共性を考えて、どうデザインするかという意識を持つことが重要ではないでしょうか。地域への連続性や周辺への開放性といった視点も大切だと思います。場合によってはステレオタイプ化したプログラムをそのまま受け入れるのではなく、強力に変えていく意志を持って新たな建築の形やあり方を提案していきたいと思っています。

 近頃は、各自治体が主催するコンペにおいてアトリエ系事務所と競合する機会も増えてきました。それぞれの長所、短所を考えながら、組織事務所のあり方を模索している時期ではないでしょうか。自治体関係者だけでなく、最近では一般市民の建築に対する関心が高まっていますから、良いデザインを生み出す組織作りはいよいよ重要だと思うのです。

(談)

 施工:松尾・中野・五光建設共同企業体