九州で初 奥田さん、希少カメムシを唐津で発見

佐賀県立宇宙科学館《ゆめぎんが》の奥田恭介さん(33)=佐賀市=がサシガメ(カメムシの一種)の仲間であるハイイロイボサシガメを唐津市の浜崎海岸で発見しました。九州本土ではこれまで生息が知られていませんでした。体長は1.2センチ。6月21日午後2時ごろ、幼虫が海浜と松林の間の草地にいるのを見つけ、飼育して羽化させ標本にしました。奥田さんは佐賀県立博物館職員で宇宙科学館に常駐しています。標本は宇宙科学館に寄付しました。発見した時の様子や研究に対する思いなどを奥田さんが寄稿してくれました。

唐津市の浜崎海岸で発見され羽化したハイイロイボサシガメ


宇宙科学館の収蔵庫で標本の整理をする奥田さん


 「珍しい虫」というと、原生林や高山の草原など、いかにも自然が豊かな場所で見つかるイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。実は皆さんにとって身近な場所にも、まだ誰もその存在を知らない虫がいることがあるのです。

 2025621日の蒸し暑い曇りの日、私は浜崎海岸に広がる草地の地表にいるカメムシの仲間を採集していました。実は地表には皆さんが普段なかなか目にすることのない変わった姿のカメムシたちがたくさん暮らしています。

 しばらく探していると、目の前に見慣れないカメムシの幼虫が現れました。「これは!」と思ってすかさず採集しました。幼虫だと種類が分からないので、持ち帰って成虫になるまで飼育しました。羽化した成虫を見て驚きました。それは、佐賀県どころか九州でもこれまで誰も見つけたことのないカメムシ、ハイイロイボサシガメだったからです。

 さらにこのカメムシは全国的にも採集例が少なく、今後絶滅危惧種になる可能性があるとして、環境省のレッドリストで準絶滅危惧種(NT)に指定されています。彼らが住める海浜などの草地環境が全国的に減少しているのがその理由のひとつですが、佐賀県内にはそんな貴重な昆虫が生きていける環境が残っていることがわかり、とてもうれしい気持ちになりました。

 今回採集したハイイロイボサシガメの採集記録は、論文にまとめて学会誌に投稿し、佐賀県(九州)が正式な分布地域として記録される予定です。そしてその記録の証拠となった標本を、佐賀県の皆さんの財産として、佐賀県立宇宙科学館のコレクションのひとつに加えることにしました。標本はこの虫がこの時この場所にいたことを示す大事な証拠になるため、いつでもその証拠を誰もが確認できるように、公共の施設に保管しておくべきだと考えたからです。いずれ皆さんにもお披露目する機会があることでしょう。

  科学館では皆さんに楽しんでもらえるような展示やイベントの運営のほか、このように佐賀県内に住む動植物の調査も行っています。県内産を中心に、3万点を超える昆虫標本のコレクションを収蔵し、次世代につないでいます。科学館が集めている標本は、佐賀県やその周辺の地域にどんな生き物がいるかを知るための貴重な資料です。これらの資料を使った調査の成果を論文にすることで、自然科学の世界にも貢献しています。

 これからも私たちは引き続き、科学館を拠点に佐賀県の自然の魅力を調べ、皆さんにお伝えする活動をしていきます。


 今回の研究成果は2025年12月発行の日本昆虫学会の学会誌・昆蟲(ニューシリーズ)28巻第4号に掲載される予定です。ぜひご覧ください。