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見えるままを記録する工夫
=写真技術(3)=

安価な感光材料開発の努力
−湿板写真の登場−
ダゲレオタイプ写真の銀板の準備は複雑で面倒なものでしたし、庶民が気軽に写真撮影を出来るようなものではなく、非常に高価なものでした。より簡便、安価で使いやすい感光材の開発の努力が続けられました。

アーチャー(英)が「コロジオン湿板写真」を考案
中でも1851年のアーチャー(英)の考案による「コロジオン湿板写真」は出色のものでした。ダゲレオタイプは銀メッキをした金属板を使いましたが、銀板の代わりにガラス板を使う方法でした。感光材の感度も上がり、日中では数秒の露光時間で撮影出来るまでになりました。この方法は、ガラス板の上に撮影直前に感光コロジオンを塗布して湿った状態で撮影するというもので、露光したガラス板にネガ画像が得られました。

湿板写真の感光コロジオンの塗布

湿板写真の撮影では、撮影の直前に暗い所で(暗室等の中で)感光コロジオンを塗布し、薬剤が湿っている内に露光する必要がありました。乾燥すると感光性が損なわれるので、取り扱いが難しいものでした。

ネガ画像に塩化銀感光紙に焼き付けることでポジ画像
このガラス板の上のネガ画像に塩化銀感光紙に焼き付けることでポジ画像を得ることが出来ました。アーチャーは特許をとらなかったため、この後「湿板写真」の時代が急速展開し、次にマドックス(英)の臭化銀ゼラチン写真乾板の発明(1871年)とそれに続く「乾板写真」の登場まで続きました。

アンブロタイプやティンタイプ写真の登場
−湿板写真から派生−
湿板写真は基本的にガラスネガから紙焼きのポジ画像を得る方法ですが、湿板写真が考案されてすぐに、湿板写真から派生した「アンブロタイプ写真」や「ティンタイプ(フェロタイプ)写真」、と呼ばれる写真も考案されました。

ネガ画像の反転現象を利用した写真
−ティンタイプ写真やアンブロタイプ写真−
湿板写真のガラス板の上のネガ画像は、黒い紙等の上に置くと、白黒が反転して見えることがあります。 マルタン(仏)は、1853年にティンタイプと呼ばれるネガの反転現象を利用した写真法を考案しました。ガラス板に感光コロジオンを塗る代わりに、薄い鉄板を黒く塗り、その上に湿板用の感光材を塗布して撮影しました。下地の黒色の関係で、反転してポジ画像が見えるというものです。
湿板写真を発明したアーチャーも撮影済みのガラス湿板の下に黒い紙や黒い布を敷くことでポジ画像が見える様工夫しました。このガラス湿板を使ったポジ反転写真をアンブロタイプと呼んでいます。

白黒のネガ画像は黒い台紙の上では反転して見えることがある

上の写真は白黒のネガフィルムを撮影したものです。ただし右側部分の下には黒い下敷きを置いています。下に黒い下敷きを置いた部分ではネガ画像が反転して白黒のポジ画像が見えているのが分かりますか?
ティンタイプ、アンブロタイプ写真と呼ばれるものはこの現象を利用して、ポジの画像を得る写真法なのです。フィルムの感光剤が塗ってある側でこの反転は起こりますので、画像としては裏焼き状態になっています。

白黒写真が盛んだった頃、白黒ネガフィルムを見てネガフィルムを見る時に角度によってポジ画像が見えることを覚えている方もいらっしゃると思います。トリックではありませんし、特別な加工をしたものではありません。白黒のネガフィルムがあれば試してみたらどうでしょう。確認出来るはずです。 フィルムの感光剤が塗ってある側でこの反転は起こりますので感光剤が塗ってある面から見るようにしてお試し下さい。


1850年代以降広く普及
湿板写真を利用したティンタイプ、アンブロタイプ写真は、高価なダゲレオタイプ(銀板写真)に代わり直接ポジ画像を見ることが出来る写真として1850年代以降広く普及しました。

ティンタイプ写真

ティンタイプ写真アンブロタイプはガラス板に映し出されたネガを黒い台紙の上に置いてポジ画像が見えるように工夫したが、ティンタイプは初めに黒く塗った金属板に湿板写真のコロジオンを塗って撮影したもの。ガラス板の下に黒い台紙を置く代わりに初めから金属板を黒く塗って余分な工程を省いている。
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